経口摂取の重要性


自力で食べることは、人間らしい生活を送るための基本です。

誤嚥性肺炎のページで嚥下機能については詳しく説明しました。

ここでは嚥下機能障害(口から十分に栄養が摂れない)の情報をお伝えします。


誤嚥は、口から食べた食物が食道→胃と行かず、一部が気管に入ってしまう状態です。

早期の場合、むせこむことで誤嚥したものを外に出し、大事に至らないのですが、嚥下障害が進行すると食物残さが気管に入ってもむせることもなくなるのです。こうなると、肺炎が必ず起こることになります。

 

誤嚥というと食物を連想される方が多いのですが、実際には唾液を誤嚥することが問題になります。

特に夜間に唾液を誤嚥することが多く、老人では嚥下反射が低下しており、唾液を誤嚥することで誤嚥性肺炎となることが多いです。

 

一連の嚥下動作は脳の指令によるものなので、誤嚥がしばしば起こるようになったら、脳機能を調べる必要があるのです。

誤嚥するということで呼吸器内科を受診する患者さんがおられますが、まずは脳外科、神経内科で脳梗塞などがないか精査してもらうのがいいでしょう。

一方、嚥下に関連する筋肉が萎縮するとスムーズに嚥下ができません。どの部位が原因で誤嚥しているかも特定する必要があります。

そのためには誤嚥の部位を特定するための検査(VE、VF)を行います。

通常、VE、VFは嚥下外来(耳鼻科や歯科)で行っている施設が多いです。


VE(嚥下内視鏡)

 

細い内視鏡を鼻からのどまで挿入し、いろいろな形態のものを実際に食べてもらって、きちんと嚥下できているかを観察します。

 

画像は

http://www.houmonshika-joy.com/04.html から引用


VF(嚥下造影検査)

 

造影剤をまぶしたさまざまな形態の食物を、透視下で飲み込んでもらい、正しく嚥下できているかを観察します。

 

画像は

http://www.keijinkai.com/static/jyouzankei/reha/feature/vf.htm から引用


VE、VFといった嚥下評価で嚥下機能が弱っていると判断された場合、

軽度であれば、嚥下訓練をすることで、あるいは食形態を工夫(とろみをつけるなど)することで経口摂取をつづけることも可能です。

重度(誤嚥を繰り返し経口摂取は無理)と判断された場合、

今後の栄養をどうするか、を考えていく必要があります。

 

経口摂取が不可能ということになると、栄養経路としては

①胃ろう(胃に穴を開けて流動食を直接胃に流し込む)

②鼻注入栄養(鼻から胃までチューブをずっと留置して、流動食を胃に流し込む)

③太い静脈から高カロリー輸液を行う の3つがメイン選択肢です。

 

 

誤嚥性肺炎を起こしやすいのは②>①>③の順です。

②の鼻注入栄養は胃から流動食が逆流しやすいのが問題です。

①の胃ろうは以前は誤嚥性肺炎を起こしにくいと言われた時期もありましたが、胃からの逆流の問題はやはりあります。

③が一番誤嚥性肺炎を起こしにくいのですが、異物(カテーテル)が静脈に留置されていること、老健施設では受け入れてもらえないことなどが難点です。

 

神経筋疾患のように脳に問題がない場合には、①②③のいずれかで十分なカロリーを入れることを考えます。

 

一方、老化に伴い嚥下機能が落ちてきて誤嚥性肺炎を繰り返すような方は一種の「老衰」です。

このような患者さんに十分すぎるカロリーを入れる意味があるのか、という議論がおこり、患者/家族の意向を踏まえた上で、

④通常の点滴(カロリーが少ない)のみをする、あるいは

⑤自力経口摂取のみとし、あとは見守るのみ。

このような選択をすることも現実的にはよくあります。

 

人間らしく生きるためには自力経口摂取が重要です。

嚥下機能低下が早期であれば、訓練(嚥下リハビリ)で経口摂取が続けられることも多いので、早期に受診するようにしましょう。