非小細胞肺癌(NSCLC)の治療はステージⅠ、Ⅱの早期がんでは手術が原則です。

ステージⅢAでも手術が検討されます。

これらの場合でも放射線、抗がん剤が行われることがあります。

ステージⅢB、Ⅳの進行がんの場合は抗がん剤、放射線がメインとなります。


肺がんの手術は腫瘍のある部位によって違いますが、

原則としては腫瘍を含めた肺葉を切除し、所属リンパ節も切除(郭清)します。

中枢に近い場合は片肺全摘出を行うこともありますが、元々の肺機能が悪いと困難です。

部分切除といって、腫瘍と周りを切除するだけのことがあります。これを縮小手術あるいは姑息的手術といいます。

患者さんの状態が今一つのとき、高齢のとき、臓器機能が悪い時などに行います。根治は望めませんが、当面の延命目的で行います。


放射線は腫瘍局所に照射し、リンパ節が腫れている場合はリンパ節も含めます。

がんの大きさが大きすぎると放射線の副作用(放射線肺臓炎、放射線食道炎、骨髄抑制など)が出やすいので、全例に照射できるわけではありません。

その他、気管支にがんができて気管支を閉塞してしまう可能性があるときに気道開存目的で照射したり、上大静脈ががんで圧迫されて上半身の血流が滞るような場合に上大静脈が閉塞しないように照射したりすることがあります。骨転移がある場合、痛みのコントロール目的で照射することもあります。

脳転移がある場合、転移巣が小さい場合はガンマナイフという単回照射もあります。多数の脳転移がある場合、全部の脳に照射することもあります。


ⅢB、Ⅳ期の非小細胞肺がんは、手術不能であり抗がん剤が主体になります。

最近次々に新規抗がん剤が発売されており、治療には患者さんの特性を考慮した抗がん剤の選択が必要になってきています。

 

がんの側の要因でポイントとなるのは、

①扁平上皮がんか非扁平上皮がんか

②遺伝子変異(EGFR、ALK、ROS-1)があるか

③PD-L1の発現状況(遺伝子治療の適応かどうか)     

 

患者さんの側で考慮すべきは

①PS(パフォーマンス・ステータス)すなわち、元気かどうか。

②年齢

③臓器機能

④社会的背景(介護力、経済力など)     です。


非小細胞肺癌のうち、30-40%でEGFR遺伝子変異陽性になります。

EGFR遺伝子変異が陽性の場合、EGFR-TKIという薬剤が第一選択になります。

EGFR-TKIはEGFR遺伝子変異が陽性の群に効果が高い抗がん剤で、現在非小細胞肺癌の一次治療で使用できるのは、イレッサ🄬、タルセバ🄬、ジオトリフ🄬になります。

EGFR遺伝子変異はエクソン19欠失、エクソン21のL858Rのメジャーな変異と、それ以外のマイナーな変異がありますが、マイナーな変異にはEGFR-TKIはあまり効きません


遺伝性変異が陰性・不明の場合、次にPD-L1の発現状況で治療方針が異なります。

 

患者さんの状態が元気(PS0)か軽作業ができる程度(PS1)の場合。

PD-L1はPD-1阻害薬という免疫療法(正確には免疫チェックポイント阻害薬)が有効かどうかを予測する指標で、がん細胞にPD-1の受容体であるPD-L1がどれくらい発現しているかを%で表示します。

PD-L1が50%以上発現している場合、PD-1阻害薬であるペンブロリズマブ(キイトルーダ🄬)の有用性が報告されています。

PD-L1が49%以下の場合は、従来のプラチナ製剤+第3世代の抗がん剤の併用を行い、血管新生阻害薬であるベバシズマブ(アバスチン🄬)の併用も検討するというのが一般的です。

 

身の回りはできるが作業はできない(PS2)ときは、第3世代の抗がん剤単剤、場合によりプラチナ製剤併用。

日中50%以上ベッドか椅子で過ごす(PS3)、寝たきり(PS4)のときは、化学療法は勧められないということです。


Ⅳ期の手術不能進行非小細胞肺がんの二次治療は、

①扁平上皮がんか、非扁平上皮がんか。

②遺伝子変異(EGFR, ALK, ROS1)があるかどうか で分かれます。


【EGFR遺伝性変異(エクソン19欠失、L858R変異)陽性の場合】

1次治療でEGFR-TKI未使用の場合、

PS0-2なら原則EGFR-TKI(イレッサ🄬、タルセバ🄬、ジオトリフ🄬)を使用します。

PS3-4で全身状態がよくない場合、エビデンスがあるのはイレッサ🄬です

 

1次治療でEGFR-TKIを使用していた場合、

T790M変異が陽性でPS0-1の場合、タグリッソ🄬を使用します。

T790M変異が陰性でPS0-1の場合、プラチナ製剤を含む2剤を使用。

PS2では第3世代の抗がん剤単剤、場合によりプラチナ製剤併用。

PS3-4では化学療法は勧められないです。


【遺伝子変異が陰性あるいは不明の場合】

PD-L1を考慮した選択肢になります。

 

1次治療でキイトルーダ🄬を未使用の場合(PD-L1が0-49%)。

PS0-1ならPD-1阻害薬(*)、あるいはドセタキセル🄬±サイラムザ🄬、アリムタ🄬単剤、S-1🄬単剤

*PD-L1が1%以上ならキイトルーダ🄬あるいはオプジーボ🄬。

*PD-L1が0%ならオプジーボ🄬。

PS2ならドセタキセル🄬単剤、アリムタ🄬単剤、S-1🄬単剤。

PS3-4なら化学療法は勧められないです。

 

1次治療でキイトルーダ🄬を使用した場合(PD-L1が50%以上)。

PS0-1ならプラチナ製剤併用の2剤

PS2なら第3世代の抗がん剤単剤、場合によりプラチナ製剤併用。

PS3-4では化学療法は勧められないです。


扁平上皮がんについてはEGFR-TKI, ALK-TKIなどの分子標的薬の効果は高くありません

【一次治療のポイント】

①PSが0-1で比較的元気な場合

PD-L1の割合で免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダ🄬)が使用できるかを検討します。

PD-L1が50%以上ならキイトルーダ🄬が第一選択となります。使用できない場合はプラチナ併用化学療法を使用します。

PD-L1が0-49%の場合、75歳未満ならプラチナ併用化学療法を、75歳以上なら第3世代の抗がん剤(場合によりカルボプラチン併用)を行います。

 

②PS2の場合

免疫チェックポイント阻害薬の効果は証明されていません。

第3世代の抗がん剤(場合によりカルボプラチン併用)を行います。

 

③PS3-4の場合

化学療法は勧められません。

 

*扁平上皮がんの場合、第3世代の抗がん剤のうちペメトレキセド(アリムタ🄬)は適応外になります。扁平上皮がんへの効果が弱いからです。

*扁平上皮がんの場合、血管新生阻害薬であるベバシズマブ(アバスチン🄬)は禁忌となります。喀血のリスクが高いからです。


扁平上皮がんの2次治療以降は、1次治療でキイトルーダ🄬を使用したかどうかで異なります。

①1次治療でキイトルーダ🄬を未使用の場合、

PS0-1であればPD-L1が1-49%であればキイトルーダ🄬あるいはオプジーボ🄬を検討。PD-L1が0%の場合オプジーボ🄬を検討。その他、ドセタキセル±サイラムザ🄬、S-1単剤

PS2であれば、ドセタキセル単剤かS-1単剤。

PS3-4であれば化学療法は勧められません。

 

②1次治療でキイトルーダ🄬を使用した場合

PS0-1であればプラチナ併用化学療法

PS2であれば第3世代の抗がん剤(場合によりカルボプラチン併用)

PS3-4であれば化学療法は勧められません。