健診で「胸部レントゲンに気になる陰影を認めますので,医療機関で2次検査を受けて下さい」という結果が出て,ドキッとした経験がある人もおられるでしょう.
健診の胸部レントゲンで最低限必要なことは「ガンと結核を否定すること」といっても過言ではありません.
特に症状がない場合,次の4つの事態が考えられます.
1)陳旧性の(古い)病変があり,毎年同じ場所の同じ陰影を指摘される場合.
2)去年まではなかった新しい異常陰影が指摘される場合.
3)今回たまたま正常なもの(乳首,皮膚のしわ等)が写り異常と判定された場合.
4)読影者により判断基準が異なるため,異常(疑い)とするような場合.
(A) 健診時と2次検査が同じ病院の場合
この場合,当然健診時のフィルムが残っているわけなので,まず検診時のフィルムをとりよせます.
たいていは健診を受けて2週間から1ヶ月で受診する人が多いので,今回も胸部X線を撮影し,健診時のフィルムと比較します(経時的変化).
上記の3)は大体ここで解決し,「大丈夫ですよ」ということになります(乳首にマーカーをつけて確認することもあります).
1),2)の場合,去年(できれば過去数年分)のフィルムがあればそれと比較し,今回の異常陰影が古い物か,ここ1年くらいで新たに出てきた物かを判定します.
同じ場所に同じ大きさで存在するならば,少なくとも悪性ではないことになり,症状がなければ経過観察となります(大体が陳旧性肺結核).
新たな陰影が疑われるような時には,CT検査(thin slice--薄くスライス)検査を行います.CTにて異常ない場合は,「肺血管の重なりあいなどでたまたま異常にみえた」という結論になります.
4)が困ります.読影はある程度経験を積んだ呼吸器科医あるいは放射線科医が行うのが普通ですが,読影技術にもばらつきがあるのは否めません.
健診時のX線がどうみても正常に見える場合,どうすればいいのでしょう?
このような場合も,去年のフィルムと比較すれば,少なくとも悪性かどうかは判断できます.
過去のフィルムがみあたらない場合,自分で見て正常か異常か迷うようなときには,私は「迷わず」CTを撮影することにしています.
胸部X線でははっきりしなくても,CTで早期ガンとわかることもあるからです.
(B) 健診時と2次検査の施設が違い,健診結果しか持って来ていない場合
こちらの方が実際には多いです.(A)と基本的にはかわりませんが,健診フィルムがない分,情報は少ないのが現実です.
2次検査当日に撮ったX線で異常がある場合でも,陳旧性の病変かどうかの判断が難しい時が多々あります.
明らかに腫瘍が疑われるような場合はCTなど精密検査としますが,はっきりしないような時には,面倒でも健診時のフィルム(とできれば過去数年分のフィルム)を借りて来てもらいます.
以前より存在する陰影であれば,陳旧性のものと判断でき,CTのよけいな被爆を避けることができるからです.
おおまかには以上のような流れです.読み返してもらってもわかるように,「過去のX線との比較」がかなり大きなウエイトを占めます.
定期的に健診を受けること,検診機関は一つに決めておくことが経時的観察という意味でも重要です.
もう一つ大事なことは,「今回異常と言われたが毎回言われている古い陰影だろう」と思い込まないことです.
古い陰影とは別に,今回の異常は新たな場所に新たな陰影ができたのかも知れません.
その意味でも,毎年同じ機関で健診を受けることが重要です(同じ機関なら以前との比較が健診の読影時にできるから).